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千葉地方裁判所 平成5年(行ウ)4号 判決

千葉県八千代市村上一七三五番地五八

原告

市村武志

右訴訟代理人弁護士

藤野善夫

守川幸男

千葉市花見川区武石町一丁目五二〇番

被告

千葉西税務署長 藤田里見

右指定代理人

栗原壯太

井上良太

宮崎芳久

富永鐘治

笹崎好一郎

尾辻七郎

蜂谷光男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し平成三年二月二八日付でした原告の昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年分の所得税の各更正並びに過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

第二当事者の主張

一  原告の主張

1  原告は、「市村組」という屋号で主として下請による鉄骨組立業を営む個人事業者である。

2  原告は、昭和六二年分から平成元年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税について、別表一の1ないし3の各「確定申告」欄記載のとおり青色申告書以外の申告書により確定申告をした。

3  被告は、原告の本件各係争年分の所得税について、平成三年二月二八日付で、別表一の1ないし3の各「更正・決定」欄記載のとおり、推計の方法により、総所得金額及び納付すべき税額を更正し(以下「本件各更正処分」という。)、併せて、過少申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定処分」という。)をし、その旨を原告に通知した(以下「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」を併せて「本件各処分」という。)。

4  原告は、本件各処分を不服として、平成三年四月二五日に被告に対して異議の申立てをしたが、同年七月二二日付で異議申立棄却決定を受けた。

原告は、同年八月一二日に国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、平成四年一一月二七日付で審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を受け、同月三〇日、その旨の通知を受けた。

5  しかし、被告のした本件各更正処分は推計の必要性も合理性もないものであって違法であり、その結果も不当である。

6  よって、原告は、本件各処分の取消しを求める。

二  被告の主張

1  本件各処分に至る経緯

(一) 被告は、原告から提出された本件各係争年分の確定申告書の内容を検討したところ、本件各係争年分の確定申告書の所得金額の計算欄には、事業所得の金額が記載されているのみで、「収入金額」及び「必要経費」の各欄には何ら記載がなく、収支内訳書の添付もないので、右所得金額を計算するための収支内容が不明であると判断した。そこで、被告は、原告の本件各係争年分の申告内容を確認するために調査をする必要があると判断し、工藤澄雄統括国税調査官を介して、亀田義教上席国税調査官(以下「亀田係官」という。)に原告の所得税の調査を命じた。

(二) 亀田係官は、平成二年七月三一日、原告宅に赴いたが、原告及びその家族が不在であったため調査ができなかった。亀田係官は、原告の本件各係争年分の所得税の調査のために訪れた旨、同年八月二日に再度訪れる旨及び当日都合が悪ければ連絡してもらいたい旨を記載した不在票を差し置いた。

原告の妻市村ウメ子(以下「ウメ子」という。)は、同年八月一日、亀田係官に電話をし、原告は八月二日には時間をとることができない旨を伝えた。その際、亀田係官は、ウメ子に対し、原告の都合の良い調査日を決めて原告の方から八月六日に連絡してもらいたい旨を原告に伝言するよう依頼した。

原告は、同年八月六日、亀田係官に対し、「八月二〇日までに具体的日程を連絡する。」旨を電話した。このとき、亀田係官は、原告に対して、「八月二〇日までの大分期間が空くことになるから税務署の方でも分かる範囲で調べさせてもらう。」旨を述べ、原告は、これに対して、「しょうがない。」旨を述べた。

ウメ子は、同年八月二〇日、亀田係官に電話をし、「九月一〇日ころ具体的な調査日を決めるために原告が電話をする。」旨を伝えた。これに対し、亀田係官が「明日八月二一日に電話をもらいたい。」旨を述べたが、同月二一日には亀田係官に連絡はなかった。

原告は、同年九月一〇日、亀田係官に対し、「調査日を九月一八日としたい。」旨を電話で連絡した。

(三) 亀田係官は、原告の指定した平成二年九月一八日に原告宅に赴いた。

原告宅には、原告以外に第三者が二人(以下「立会人ら」という。)おり、原告及び立会人らは、調査理由の開示を要求したり、亀田係官があらかじめ原告の発注先等に対して原告との取引状況などを調査したこと(以下「反面調査」という。)について苦情をまくし立てたりした。亀田係官は、まず、調査に関係のない立会人らを退席させてもらいたい旨を述べ、立会人らが退席した後、原告に対して、納税者本人に会わなければ反面調査ができないというわけではないこと等を説明した上、帳簿書類を見せてくれるよう要請した。原告は、亀田係官に対して、外注先を反面調査しないという保証を求め、その保証がない限り帳簿書類を見せられない旨を述べた。

亀田係官は、帳簿書類を見せてほしい旨を再三にわたって要請したが、原告があくまでも反面調査をしないことの保証を求め続け、わずかに、売上金額等が記載された集計表四枚を手渡したにすぎなかったため、このような状況では原告の所得金額を実額で調査計算することはできないものと判断し、原告に対して、原告の本件各係争年分の事業所得の金額を推計の方法により算出せざるを得ない旨を説明し、推計の結果が出たら知らせる旨述べて、原告宅を辞去した。

(四) 被告は、平成三年二月二八日付で、別表一の1ないし3の各「更正・決定」欄記載のとおり、推計の方法により、本件各更正処分をし、また、本件各賦課処分をした。

2  推計の必要性

右1の(一)ないし(三)のとおり、原告は、確定申告書の「収入金額」及び「必要経費」の各欄に何らの記載もしておらず、故意に調査日を遅らせた上、亀田係官の臨場調査においても、亀田係官に対して売上金額等を記載した集計表を手渡したのみで、外注先に対する反面調査をしない旨の保証がない限り帳簿書類を見せることはできないと述べ、確定申告の基となった原始的な帳簿書類を提示してもらいたいという亀田係官の再三にわたる要請にも終始態度を変えることなくかたくなにこれを拒否し続け、再度亀田係官が臨場調査に臨んでもそのかたくなな態度を変える意思がないことを示していたのであるから、本件において、推計の必要性が存在したことは明らかである。

3  原告の本件各係争年分の事業所得

被告が本件訴訟で主張する原告の本件各係争年分の事業所得の金額は、次のとおりである。

(一) 昭和六二年分 一二二三万八五五九円

(1) 総収入金額 九五三三万一〇二五円

「総収入金額」は、原告の営む鉄骨組立業にかかる昭和六二年分の収入金額の合計金額(実額)であり、その内訳は以下のとおりである。

千葉県西部鉄骨業協同組合 四六八二万七二七五円

(後に「協同組合千葉鉄骨センター」と商号変更)

(株)米山鉄工所 三八三〇万二八〇〇円

吉村工業(株) 九〇七万五五五〇円

(株)越川工業 一一二万五四〇〇円

(2) 同業者の平均特前所得率(別表二の1) 〇・一三三一

「同業者の平均特前所得率」とは、千葉県内及び東京都二三区内において原告と同様に鉄骨組立業を営む青色申告の個人事業者でかつ原告と事業規模が類似する者(以下「同業者」という。)の昭和六二年分の事業所得にかかる総収入金額に対する特前所得金額(総収入金額から売上原価、一般経費、特別経費を控除して算定した青色申告特典控除前の所得金額をいう。以下同じ。)の割合(以下「特前所得率」という。)の平均値である(別表二の1。ただし、小数点第五位以下四捨五入。以下同じ。)。

(3) 特前所得金額((1)×(2)) 一二六八万八五五九円

「特前所得金額」とは、(1)の総収入金額に(2)の同業者の平均特前所得率を乗じて算出した額である。

(4) 事業専従者控除額 四五万円

「事業専従者控除額」とは、原告の長男市村武人にかかる所得税法五七条三項(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)所定の事業専従者控除額である。

(5) 事業所得金額((3)―(4)) 一二二三万八五五九円

「事業所得金額」とは、(3)の特前所得金額から(4)の事業専従者控除額を控除した金額である。

(二) 昭和六三年分 一二七八万一八七四円

(1) 総収入金額 九八八五万四四〇〇円

千葉県西部鉄骨業協同組合 四八五七万〇九〇〇円

(株)米山鉄工所 四〇六七万七六〇〇円

吉村工業(株) 九六〇万五九〇〇円

(2) 同業者の平均特前所得率(別表二の2) 〇・一二九三

(3) 特前所得金額((1)×(2)) 一二七八万一八七四円

(4) 事業専従者控除額 〇円(事業専従者はいない。)

(5) 事業所得の金額((3)―(4)) 一二七八万一八七四円

(三) 平成元年分 一五五〇万八五二七円

(1) 総収入金額 九九六六万九一九六円

千葉県西部鉄骨業協同組合 三六四一万三〇八三円

(株)米山鉄工所 三四五七万九三三五円

吉村工業(株) 九七五万〇八二九円

高橋鉄工(株) 一二七八万三六四五円

富士栄工業(株) 三三九万一三〇四円

寺光工業 二二〇万六〇〇〇円

日東化工機(株) 三〇万五〇〇〇円

(平成二年二月以前の商号は「日東プラスチック工業(株)」)

甲和テクノシステム(株) 二四万円

(2) 同業者の平均特前所得率(別表二の3) 〇・一五五六

(3) 特前所得金額((1)×(2)) 一五五〇万八五二七円

(4) 事業専従者控除額 〇円(事業専従者はいない。)

(5) 事業所得の金額((3)―(4)) 一五五〇万八五二七円

4  推計の合理性

(一) 被告は、本件各係争年分の原告の総所得金額(事業所得金額)を算出するに当たり、まず、原告の営む鉄骨組立業の本件各係争年分の総収入金額を算定した上、千葉県内及び東京都二三区内において原告と同様に鉄骨組立業を営む青色申告の個人事業者でその総収入金額が原告の総収入金額の半分以上二倍以下の範囲内にある者のうち、左記〈1〉ないし〈3〉の条件を満たす者を同業者として漏れなく抽出し、別表二の1ないし3のとおり、その特前所得率を調査し、その平均特前所得率を求めてこれを原告の総収入金額に乗じて原告の特前所得金額を算出し、そして、右特前所得金額から昭和六二年分については事業専従者控除額を控除して総所得金額を計算し、昭和六三年分及び平成元年分については特前所得金額と同じ金額を総所得金額としたものである。被告の用いた推計の方法には合理性がある。

〈1〉 年を通じて鉄骨組立業を営んでいる者

〈2〉 昭和六二年分については青色事業専従者が一名の者、昭和六三年分及び平成元年分については青色事業専従者がいない者

〈3〉 経営状態が異常であると認められる者や更正等を受けて現に不服申立中の者以外の者

(二) なお、同業者の特前所得率の分布状況は、次のとおりになる。

昭和六二年分

九パーセント台以下 四件

一〇パーセントから一五パーセント台 一一件

一六パーセントから一九パーセント台 三件

二〇パーセント以上 なし

昭和六三年分

九パーセント台以下 一件

一〇パーセントから一五パーセント台 六件

一六パーセントから一九パーセント台 なし

二〇パーセント以上 なし

平成元年分

九パーセント台以下 一件

一〇パーセントから一五パーセント台 三件

一六パーセントから一九パーセント台 二件

二〇パーセント以上 一件

(三) 本件各係争年分において被告が主張する同業者の平均特前所得率は、前記のとおり、昭和六二年分が一三・三一パーセント、昭和六三年分が一二・九三パーセント、平成元年分が一五・五六パーセントであり、この平均特前所得率に近似する範囲は、右の一〇ないし一五パーセント台であり、各年分ともその範囲内の件数が一番多いことからみて統計的に有意性をもつ数値といえる。

5  本件各処分の適法性

(一) 被告が本件訴訟で主張する原告の本件各係争年分の総所得金額(事業所得の金額)は、昭和六二年分が一二二三万八五五九円、昭和六三年分が一二七八万一八七四円、平成元年分が一五五〇万八五二七円である。一方、本件各更正処分における原告の総所得金額は、昭和六二年分が一〇九六万一〇二七円、昭和六三年分が一二一七万八八六三円、平成元年分が一一五五万六四二九円であって(別表一の1ないし3の各「更正・決定」欄)、それらは、いずれも被告が本件訴訟において主張する原告の総所得金額より少ないから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(二) 本件各更正処分がいずれも適法である以上、国税通則法六五条一項及び二項の規定に基づき行った本件各賦課決定処分も適法である。

三  原告の再主張

1  「本件各処分に至る経緯」に対して

(一) 原告が本件各係争年分の確定申告書に「収入金額」及び「必要経費」を記載していなかったこと、収支内訳書を添付していなかったことは認めるが、「収入金額」及び「必要経費」の記載は必ずしも確定申告上必要なものではなく、また、収支内訳書が添付されていないことは調査開始の理由とはならない。

(二) 亀田係官が平成八年八月六日に原告に対して「八月二〇日までに大分期間が空くことになるから税務署の方でも分かる範囲で調べさせてもらう。」旨を述べ、原告がこれに対して「しょうがない。」旨を述べた、との事実は否認する。

(三) 平成二年九月一八日に亀田係官が原告の自宅に来たこと、立会人が二人いたこと、原告が「本人に会う前に取引先の調査をするのはおかしい。」旨を述べて質したこと、亀田係官が立会人らの退席を求めたこと、原告が亀田係官に集計表を手渡したことは認めるが、原告が亀田係官に対して外注先の反面調査をしないことの保証を求めたとの点は強く否認する。原告は、亀田係官に対して、外注先に対する反面調査に十分配慮して欲しい旨を述べただけである。しかし、亀田係官は、原告の説明を聞こうともせず、「また来ます。」と言い置いて帰ってしまったのである。

2  「推計の必要性」に対して

原告は、被告の調査を意図的に引き延ばしたことはなく、また、前記のとおり、外注先に対する反面調査をしないことの保証を求めたこともない。

そもそも、推計課税は、課税庁が被調査者から売上、売上原価、一般経費、特別経費などについての資料の提供を受けようとする努力をしたにもかかわらず、被調査者がこれを拒否したり、これに協力しようとしないというときに限って最後の手段として行うべきものである。

本件において、亀田係官は、平成二年九月一八日に原告宅に来たものの、立会人問題に固執し、原告が説明しようとするのも聞かず、そして、後日また来る旨を述べて帰ってしまったのであり、しかるに、亀田係官は、平成三年二月五日にいきなり修正申告をするよう強要してきたのであって、本件各処分は推計課税を行う必要性を欠いていて違法である。

3  「原告の本件各係争年分の事業所得」に対して

被告が本件訴訟において主張する原告の事業所得は余りに過大であって、実際の原告の所得金額と大きくかけ離れている。

4  「推計の合理性」に対して

(一) 「同業者」の抽出方法の恣意性について

被告の「同業者」の抽出方法はきわめて恣意的であって、合理性のないものである。

(1) 東京国税局の管轄は、東京都・神奈川県・千葉県及び山梨県であるところ、被告はそのうちの千葉県内及び東京都二三区内だけの「同業者」なるものを抽出したにすぎない。しかも、被告は、異議決定においては千葉西税務署及び近隣の税務署管内だけから抽出していたのに、本件訴訟においては東京都二三区内からも抽出して、つじつま合わせをしている。

(2) 原告は、主に千葉県内において鉄骨組立業を営むものであるところ、抽出された千葉県内の「同業者」は、昭和六二年分には七名いたものが、昭和六三年分及び平成元年分においてはそれぞれ一名しかいない。

(3) 本件各係争年分の「同業者」の総収入金額を検討してみると、原告の総収入金額に匹敵する者は各年分とも一名程度であり、大半は原告の総収入金額の七五パーセント以下(その多くは五〇パーセント程度)である。

(二) 「同業者の平均特前所得率」の恣意性について

被告が算出した「同業者の平均特前所得率」も恣意的である。すなわち、本件各更正決定時には、昭和六二年分が一一・四九パーセント、昭和六三年分が一二・三二パーセント、平成元年分が一一・五九パーセントであったが、異議決定時及び審査裁決時においては、昭和六二年分が一二・四〇パーセント、昭和六三年分が一二・三三パーセント、平成元年分が一三・九一パーセントとなり、さらに、本件訴訟においては、突然、昭和六二年分が一三・三一パーセント、昭和六三年分が一二・九三パーセント、平成元年分が一五・五六パーセントと上がっているのである。しかし、原告の実際の所得率は、後記のとおり、昭和六二年分が四・九〇パーセント、昭和六三年分が五・四〇パーセント、平成元年分が五・一四パーセントである。被告主張の右「同業者の平均特前所得率」は、原告の実際の所得率の二ないし三倍程度の数値であり、原告の所得の実際をふまえない極めて不当なものである。

(三) また、原告の営業は、工場をもたず、自宅を事務所にして、従業員数人と外注先によって鉄骨加工業を遂行しているものであって、外注費がかかることはもとより、従業員に対しても給料賃金も支払わなければならず、さらに、発注先の工場への交通費や現場への交通費も多くかかるという特徴がある。被告はこの点をまったく考慮せず、機械的に「同業者の平均特前所得率」なるものをそのまま原告にあてはめているのである。

5  「本件各処分の適法性」に対して

本件各更正処分及び本件各賦課決定処分は、いずれも違法である。

6  原告の本件各係争年分の事業所得(実額の主張)

原告の本件各係争年分の事業所得の実際の金額は、以下のとおりである。

(一) 昭和六二年分 四二二万九七一五円

(1) 売上 九五三三万〇六二五円

吉村工業(株) 九〇七万五五五〇円

千葉県西部鉄骨業協同組合 四六八二万七二七五円

(株)米山鉄工所 三八三〇万二八〇〇円

(株)越川工業 一一二万五〇〇〇円

(2) 経費 九〇六五万〇九一〇円

〈1〉売上原価(外注費) 六〇二七万九八六〇円

〈2〉給料・賃金 一八五五万五四八五円

〈3〉福利厚生費 一七一万二二一〇円

〈4〉減価償却費 四四万九八四七円

〈5〉修繕費 二万八七〇〇円

〈6〉消耗品費 二七〇万〇〇一七円

(ただし、最終口頭弁論において二三三万五七九三円と訂正)

〈7〉旅費交通費 四三六万一七〇九円

〈8〉租税公課 二七万三五六〇円

〈9〉交際接待費 八七万三二五五円

〈10〉保険料 九九万五七〇三円

〈11〉通信費 一五万八三七〇円

〈12〉諸会費 八万二六〇〇円

〈13〉雑費 六万九四二〇円

〈14〉支払利息 一一万〇一七四円

(3) 特前所得金額 四六七万九七一五円

(特前所得率四・九〇パーセント)

(4) 事業専従者控除 四五万円

(5) 所得金額 四二二万九七一五円

(6) 課税所得金額 二八一万一一四五円

(二) 昭和六三年分 五三三万四六二四円

(1) 売上 九八八五万四四〇〇円

吉村工業(株) 九六〇万五九〇〇円

千葉県西部鉄骨業協同組合 四八五七万〇九〇〇円

(株)米山鉄工所 四〇六七万七六〇〇円

(2) 経費 九三五一万九七七六円

〈1〉売上原価(外注費) 五六一二万九三七六円

〈2〉荷造運賃 六万円

〈3〉給料・賃金 二四三二万五九七五円

〈4〉福利厚生費 三一一万六七五一円

〈5〉減価償却費 四六万六三三一円

〈6〉修繕費 一三万一三六五円

〈7〉消耗品費 二二一万〇七五一円

〈8〉旅費交通費 四四二万七七五〇円

〈9〉租税公課 一七万四八〇〇円

〈10〉交際接待費 一〇八万八三〇〇円

〈11〉保険料 九八万五一六九円

〈12〉通信費 一九万四八四〇円

〈13〉諸会費 七万五三〇〇円

〈14〉雑費 三六〇〇円

〈15〉支払利息 一二万九四六八円

(3) 特前所得金額 五三三万四六二四円

(特前所得率五・四〇パーセント)

(4) 所得金額 五三三万四六二四円

(5) 課税所得金額 三九〇万二二二四円

(三) 平成元年分 五一二万五九八六円

(1) 売上 九九七一万五一四六円

吉村工業(株) 九七五万〇八二九円

千葉県西部鉄骨業協同組合 三六四一万三〇八三円

(株)米山鉄工所 三四六二万五二八五円

高橋鉄工 一二七八万三六四五円

富士栄工業(株) 三三九万一三〇四円

寺光工業 二二〇万六〇〇〇円

日東化工機(株) 三〇万五〇〇〇円

甲和テクノシステム(株) 二四万円

(2) 経費 九四五八万九一六〇円

〈1〉売上原価(外注費・仕入) 五六六七万〇八二五円

〈2〉荷造運賃 一〇万〇六〇〇円

〈3〉給料・賃金 二四一二万一二七五円

〈4〉福利厚生費 二五二万四三五八円

〈5〉減価償却費 四六万六三三一円

〈6〉修繕費 四万七四三七円

〈7〉消耗品費 二四〇万二七二七円

〈8〉旅費交通費 四六五万〇四六七円

〈9〉租税公課 一九万〇二〇〇円

〈10〉交際接待費 一六六万六八四一円

〈11〉保険料 七三万〇八六〇円

〈12〉通信費 二五万四〇二八円

〈13〉諸会費 五三万〇六三九円

〈14〉リース料 一万九七四〇円

〈15〉雑費 三〇〇二円

〈16〉支払利息 二〇万九八三〇円

(3) 特前所得金額 五一二万五九八六円

(特前所得率五・一四パーセント)

(4) 所得金額 五一二万五九八六円

(5) 課税所得金額 三四一万六〇八六円

四  被告の再主張

原告が主張する本件各係争年分の事業所得の金額(実績)は争う。

1  原告は、被告が推計の方法により行った課税処分の取消しを求め、直接の資料によって総収入及び必要経費の実績を主張立証するのであるから、その主張する収入金額が原告の当該係争年分のすべての取引から生じたすべての収入によるものであることを主張立証し、また、その主張する経費がこれに対応するものであることを主張立証しなければならない。しかし、原告は、そのすべての収入を主張しておらず、また、支出していない経費について支出したものと主張している。

2  原告は、実額の主張をしながら、書証の早期及び全部提出の要請に反し、書証の提出を遅らせたばかりか、証拠調べが終了した後である平成九年一〇月二四日の口頭弁論期日において、ようやく収入金額の立証と称して原告保存の請求書(控)を提出したのである。

また、原告は、商法三二条及び三六条に規定されている商人の商業帳簿の作成及び保存の義務に違反し、また、所得税法二三一条の二に規定するいわゆる白色申告者の記帳義務にも違反して、会計帳簿を作成しておらず、本件訴訟に至ってようやく領収書や出金伝票をもとに作成した「売上経費関係説明書」と称する総勘定元帳(甲二五ないし三〇)を提出したが、本件各係争年分にかかる会計帳簿をまったく作成していなかった原告において、実績でその所得を計算することはそもそも不可能なのである。

仮に、会計帳簿がない状況において、原告が提出した領収証や出金伝票等により原告の事業所得の金額を実額で計算するとしても、右領収証や出金伝票等は極めて不完全なものあるいは真実に反するものであるから、原告の本件各係争年分の事業所得の金額を実額により計算することはできないのである。

第三当裁判所の判断

一  「原告の主張」1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

二  認定事実

証拠(甲一三、一四、乙二ないし五四の各1ないし4、五五、五六の1ないし4、七六、証人亀田義教、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和四四年四月ころから、従業員数人を使用して下請による鉄骨の製作加工組立業を営んでいたが、自らは工場をもたないため、その事業遂行の形態は、原則として、発注者(元請)の工場に従業員や外注先(外部委託者)とともにいわゆる「親方」として出向き、支給された鉄骨について製作加工組立工事を行うものであり、このほかに、発注者から依頼されて建築工事現場等の現場に出向き、その現場で鉄骨について製作加工組立工事を行うこともあった(第七回口頭弁論期日における原告本人尋問。以下、略して「第七回」のように表記する。)。

原告の従業員は、本件各係争年において概ね六名ないし八名であり、また、外注先は約一〇名程度であって、これらの者は、発注者の工場に出勤した場合には、備付けのタイムカードを押すこととなっており、その勤務時間は午前八時から午後四時四五分までであり、発注者千葉県西部鉄骨業協同組合(後に「協同組合千葉鉄骨センター」と変更)(千葉県印旛郡八街町)の工場における原告の従業員の責任者は、荒井清浩、同株式会社米山鉄工所の工場(千葉県市川市)におけるそれは本田透、同吉村工業株式会社の工場(千葉県習志野市)におけるそれは本間貞雄であった。(甲五一の1ないし6、六六の1ないし8、八一の1ないし7、一二二ないし一二四)

2  原告は、昭和六二年分から平成元年分までの本件各係争年分の所得税について、別表一の1ないし3の各「確定申告」欄記載のとおり、確定申告書(白色申告)を提出した。(甲四七ないし四九)

3  原告は、この間の昭和六三年に、従前の住所である千葉県八千代市大和田新田四八六番地二〇から現住所である八千代市村上一七三五番地五八に転居した。(甲一〇二、一〇三)

4(一)  被告は、原告から提出された本件各係争年分の右確定申告書の内容を検討したところ、本件各係争年分の確定申告書の所得金額の計算欄に事業所得の金額が記載されているのみで、「収入金額」及び「必要経費」の各欄に何ら記載がなく、収支内訳書の添付もなかったので、右所得金額を検討することができず、そこで、被告は、原告の申告内容が適正であるか否かについて確認する必要があると判断し、工藤澄雄統括国税調査官を介して亀田係官に原告の所得税の調査を命じた。

(二)  亀田係官は、平成二年七月三一日、原告宅に赴いたが、原告及びその家族が不在であったため、原告の本件各係争年分の所得税の調査に訪れたこと、八月二日に再度訪れること及び当日都合が悪ければ連絡してもらいたい旨を記載した不在表を差し置いた。

原告の妻ウメ子は、同年八月一日、亀田係官に電話をし、「八月二日は原告の都合が悪い。」旨を連絡した。そこで、亀田係官は、原告の都合のよい調査日を決めて八月六日に連絡してもらいたい旨を原告に伝言するようウメ子に依頼した

原告は、同年八月六日、亀田係官に電話をし、「仕事が忙しい。八月二〇日に具体的な日程を連絡する。」旨を伝えた。亀田係官は、八月二〇日に調査日が決まるのであれば実際の調査日はかなり遅れるであろうと考え、原告に対し、税務署側で分かる範囲のことは調べておく旨を告げ、右電話の後、原告の取引銀行に対して預金口座の入出金概況等を照会する文書を送付し、また、同月七日には原告の発注者に対して取引金額等を照会する文書を送付した。(甲一三、一四)

ウメ子は、同年八月二〇日、原告の指示により、亀田係官に電話をし、「九月一〇日ころ具体的な調査日を決めるために原告が電話をかける。」旨を伝えた。亀田係官は、調査日を再三延期されているので、ウメ子に対し、翌二一日に原告の方から電話をかけるよう依頼した。しかし、原告は、翌二一日には亀田係官に電話をしなかった。

原告は、同年九月一〇日、亀田係官に電話をし、調査日を同月一八日として欲しい旨を述べ、亀田係官はこれを了承した。この際、亀田係官は、原告に対して、本件各係争年分の申告の基となった帳簿書類のすべてを準備して調査に協力してくれるよう依頼し、原告はこれを了承した。

(三)  平成二年九月一八日午前一〇時ころ、亀田係官は一人で原告宅に赴いた。原告宅では、原告のほかに、第三者である立会人ら二人が待機していた。亀田係官は、原告に対して、身分証明書及び質問検査章を提示して、原告の本件各係争年分の所得税の調査のために来た旨を告げて、調査への協力を求めた。

これに対して、原告は、亀田係官に、「どういうことでうちに来たのか。ちゃんと申告しているのに。」と言い、亀田係官は「その申告が正しいかどうかを確認するためです。」と答えたが、原告及び立会人らは、さらに「具体的な調査理由を言え。」、「本人に会う前に反面調査をするとは何事だ。」、「あちらこちらから電話が来ている。お前のところは何をやっているんだと言われたこともある。」などと言って、亀田係官があらかじめ反面調査をしたことに対して強く抗議をした。

亀田係官は、原告に対して、調査に関係のない立会人らを退席させてもらいたい旨を再三にわたり要請し、立会人らは、原告からの指示もあって三〇分後に退席した。

原告は、立会人らが退席した後、亀田係官に対して、以前にも税務署によって反面調査をされたことがあり、そのときに外注先にも調査が及び、それに嫌気がさした外注先が仕事を辞めて困ってしまったことがあったことなどを話した。そして、原告は、「売上明細や経費明細ならここにあるから検討してもらってもいいが、外注費については外注先を調査しないという保証がない限り見せることはできない。」、「(外注先の)住所と氏名ははっきりさせてある。」旨を申し立てた。このとき、原告の傍らには請求書、領収証等の資料(以下「原始資料」という。)が入っている袋が二、三袋置いてあったが、原告は、その袋の中の資料を亀田係官に見せようとせず、「売上」、「銀行振込」、「消耗品他」、「弁当代」、「手数料」、「社員給料」、「外注支払」、「現場交通費」等の項目別に本件各係争年分毎の金額を自己において合計して記載した集計表(乙五六の1ないし4)(以下「集計表」という。)を見せて、これを渡そうとしたのみであった。

これに対して、亀田係官は、原告に対し、原始資料を提出してもらって外注費の支払先である外注先の確定申告内容と照らし合わせて確認したいこと、結果として誤りがあれば誤りのある方に是正を求めることになること等を説明し、反面調査をしないという保証はできない旨を述べた。そして、亀田係官は、原告の傍らの袋の中のものを全部見せてくれるよう要請したが、原告は、繰り返し、外注先を反面調査しないとの保証を求め、反面調査をしないという保証のない限りは原始資料を見せることはできない旨を述べた。

亀田係官は、原告の右のような態度からして、これ以上の調査の進展は望めないものと判断し、このような状況では推計課税をせざるを得ない旨を述べた上、原告宅を辞去しようとしたところ、原告は、亀田係官に対して、「これをもって行け。」と言って、前記集計表を差し出した。亀田係官は、項目別に金額を合計したにすぎない集計表では申告額が正しいかどうかを確認できないため、申告の基となった原始資料を見せて欲しい旨を原告に対して再度要請したが、原告は、外注先の反面調査を行わないとの保証がなければ原始資料を見せることはできない旨を繰り返して、亀田係官の原始資料の提示要請には応じなかった。

亀田係官は、以上の状況から、原告の手元にある原始資料によって原告の所得金額を実額で計算することはできないものと考え、また、再度臨場調査に赴いても原始資料の提示は受けられないものと判断し、原告に対して、原告の本件各係争年分の事業所得の金額を推計の方法により計算せざるを得ない旨を述べるとともに、後日調査結果が出たら連絡する旨を述べて、原告宅を辞去した。

立会人らが退席し、原告と亀田係官が二人だけで話をし出してから亀田係官が原告宅を辞去するまでの時間は、約一時間であった。

5  その後、被告は、原告の事業所得の金額を推計の方法によって計算することとし、千葉西税務署及びこれに隣接する税務署並びに東京都江戸川区の税務署管内の同業者の所得率を調査した上(乙七六)、平成三年二月二八日付で別表一の1ないし3の各「更正・決定」欄記載のとおり本件各更正処分をした。

被告が推計した原告の本件各係争年分の事業所得の金額は、昭和六二年分が一〇九六万一〇二七円、昭和六三年分が一二一七万八八六三円、平成元年分が一一五五万六四二九円であった。

6  原告は、本件各処分に対し、異議の申立てをしたが、被告は、平成三年七月二二日付でこれを棄却した。

その異議棄却決定で改めて被告が推計した原告の本件各係争年分の事業所得の金額は、昭和六二年分が一一三七万〇九四八円(推計に用いた所得率一二・四〇パーセント)、昭和六三年分が一二一八万八七四九円(同一二・三三パーセント)、平成元年分が一三六四万六〇〇五円(同一三・九一パーセント)であった(甲二)。

7  原告は右異議棄却決定に対して審査請求をしたが、国税不服審判所長は、被告が右異議棄却決定で用いた所得率を是認し、また、右異議棄却決定で被告が推計した原告の本件各係争年分の事業所得金額を是認して、平成四年一一月二七日付で審査請求を棄却した(乙一)。

以上の事実が認められる。

三  判断

1  推計の必要性について

前記二の4で認定したとおり、原告の提出した本件各係争年分の確定申告書には、その「収入金額」及び「必要経費」の各欄に何らの記載もなく、また、所得税法一二〇条四項、同法施行規則四七条の三に違反して収支内訳書の添付もなかったのであり、そこで、亀田係官は、平成二年九月一八日に原告宅に所得税の調査に赴いたが、原告は、ほか二名の立会人とともに、亀田係官が既に反面調査に着手していることに強く抗議した上、亀田係官の原始資料の提示要請に対して、外注先に反面調査をしないとの保証がない限り見せることはできない旨を述べてこれを拒否し、わずかに自己が原始資料の金額を合計して記載した集計表を見せてこれを手渡そうとしただけであり、亀田係官が繰り返し原始資料の提示を求めたのに対して、あくまでも反面調査をしないことの保証を求めて、その提示を拒否したのであるから、さらに、原告の右のような言動から、再度臨場調査に赴いても原始資料の提示は受けられないであろうと判断した亀田係官の判断はやむを得ないものであったといえる。

そうとすれば、本件において、被告が、原告の事業所得の金額を計算するにつき推計の方法を用いたことはやむを得ないものであったというべきであり、本件において推計の必要性は認められるものである。

2  推計の合理性について

(一) 被告が本件訴訟において主張する推計の方法による原告の本件各係争年分の事業所得の金額は、次のとおりである。

(1) 昭和六二年分 一二二三万八五五九円

〈1〉総収入金額 九五三三万一〇二五円

〈2〉同業者の平均特前所得率 〇・一三三一

〈3〉特前所得金額(〈1〉×〈2〉) 一二六八万八五五九円

〈4〉事業専従者控除額 四五万円

〈5〉事業所得金額(〈3〉―〈4〉) 一二二三万八五五九円

(2) 昭和六三年分 一二七八万一八七四円

〈1〉総収入金額 九八八五万四四〇〇円

〈2〉同業者の平均特前所得率 〇・一二九三

〈3〉特前所得金額(〈1〉×〈2〉) 一二七八万一八七四円

〈4〉事業所得の金額 一二七八万一八七四円

(3) 平成元年分 一五五〇万八五二七円

〈1〉総収入金額 九九六六万九一九六円

〈2〉同業者の平均特前所得率 〇・一五五六

〈3〉特前所得金額(〈1〉×〈2〉) 一五五〇万八五二七円

〈4〉事業所得の金額 一五五〇万八五二七円

(二) 被告の主張する「同業者の平均特前所得率」の算出方法は次のとおりである。

原告への発注者の主なものは、千葉県内及び東京都江戸川区内にある。

そこで、東京国税局長は、まず、原告の総収入金額を、反面調査等によって、右のとおり、昭和六二年分が九五三三万一〇二五円、昭和六三年分が九八八五万四四〇〇円、平成元年分が九九六六万九一九六円と算定した上、千葉県内及び東京都二三区内において原告と同様に鉄骨組立業を営む青色申告の個人事業者で、その総収入金額が右総収入金額の半分以上二倍以下の範囲内にある者のうち、左記〈1〉ないし〈3〉の条件を充たす者を平成五年六月一一日付「税務訴訟に関する資料の作成及び報告について(通達)」と題する通達により抽出し(乙二ないし五四の各1ないし4、七六)、別表二の1ないし3のとおり、その特前所得率を調査算出し、その平均特前所得率を求めた。

〈1〉 年を通じて鉄骨組立業を営んでいる者

〈2〉 昭和六二年分については青色事業専従者が一名の者、昭和六三年分及び平成元年分については青色事業専従者がいない者

〈3〉 経営状態が異常であると認められる者や更正等を受けて現に不服申立中の者以外の者

(三) 被告の主張する「同業者の平均特前所得率」は、右のようにして算出されたものであるが、原告への発注者の主たるものは千葉県内及び東京都江戸川区内に工場をもつものであること、原告の本件各係争年分の総収入金額は、右の各金額程度であると認められること(原告が実績として主張する総収入金額もこれと同額又はほぼ同額である。)、抽出された鉄骨組立業者はその総収入金額が原告のそれの半分以上二倍以下の範囲内にある者であり、原告とその事業規模が類似する同業者を抽出するための基準として合理性を有するものといえること、等を考慮すると、抽出された業者は、原告とその事業地域や事業規模の点で類似している青色申告同業者と認められるから、その抽出過程には税務当局の恣意が介在する余地はなく、右「同業者の平均特前所得率」の算出方法には合理性があるものということができる。

したがって、右「同業者の平均特前所得率」を総収入金額に乗じて算出された原告の特前所得金額もまた合理性を有するものということができる。

(四) これに対し、原告は、「(1)被告の「同業者」の抽出方法はきわめて恣意的であって、合理性のないものである。すなわち、〈1〉東京国税局の管轄は、東京都・神奈川県・千葉県及び山梨県であるところ、被告はそのうち千葉県内及び東京都二三区内だけの「同業者」なるものを抽出したにすぎない。しかも、被告は、異議決定においては千葉西税務署及び近隣の税務署管内だけから抽出していたのに、本件訴訟においては東京都二三区内からも抽出して、つじつま合わせをしているのである。〈2〉原告は、主に千葉県内において、鉄骨組立業を営むものであるところ、抽出された千葉県内の「同業者」は、昭和六二年分には七名いたのに、昭和六三年分及び平成元年分においてはそれぞれ一名しかいない、〈3〉本件各係争年分の「同業者」の総収入金額を検討してみると、原告の総収入金額に匹敵する者は各年分とも一名程度であり、大半は原告の総収入金額の七五パーセント以下(その多くは五〇パーセント程度)である、(2)被告が算出した「同業者の平均特前所得率」も恣意的である、すなわち、本件各更正決定時には、昭和六二年分が一一・四九パーセント、昭和六三年分が一二・三二パーセント、平成元年分が一一・五九パーセントであったが、異議決定時及び審査裁決時においては、昭和六二年分が一二・四〇パーセント、昭和六三年分が一二・三三パーセント、平成元年分が一三・九一パーセントとなり、さらに、本件訴訟においては、突然、昭和六二年分が一三・三一パーセント、昭和六三年分が一二・九三パーセント、平成元年分が一五・五六パーセントと上がっているのである。しかし、原告の実際の所得率は、昭和六二年分が四・九〇パーセント、昭和六三年分が五・四〇パーセント、平成元年分が五・一四パーセントである。被告主張の右「同業者の平均特前所得率」は、原告の実際の所得率の二ないし三倍程度の数値であり、原告の所得の実際をふまえないきわめて不当なものである。(3)また、原告の営業は、工場をもたず、自宅を事務所にして、従業員数人と外注先によって鉄骨加工業を遂行しているものであって、外注費がかかることはもとより、従業員に対しても給料賃金も支払わなければならず、さらに、発注先の工場への交通費や現場への交通費も多くかかるという特徴がある。被告はこの点をまったく考慮せず、機械的に「同業者の平均特前所得率」なるものをそのまま原告にあてはめているのである。」旨を主張する。

しかしながら、右(1)の点については、原告への発注者の主なものは千葉県内及び東京都江戸川区内に工場をもつ会社であり、原告は原則としてその工場に出向いて鉄骨の製作加工組立工事をしていたものであるから、東京国税局の管轄のうち千葉県内及び東京都二三区内の同業者に限定して抽出したことは相当である。また、被告が同業者の抽出地域を異議決定時の「千葉西税務署及び近隣の税務署管内」から「千葉県内及び東京都二三区内」に広げ、本件訴訟において改めてその範囲内から同業者の抽出を行い、その結果得られた「同業者の平均特前所得率」を主張したとしても、そもそも課税処分取消訴訟における訴訟物は処分の違法性一般であって、処分理由は処分時に客観的に存在していれば足りるものであるから、税務署長は、処分時の認定理由に拘束されることなく、その後の調査により新たに発見した事実を追加して、処分理由を差し替えることが許されるものと解すべきであり、また、実質的に見ても、被告の右取扱いは、同業者の数をより多くしてより客観性をもたせようとするものであって、何ら違法とすべきものではないというべきである(なお、原処分においては、東京都江戸川区内の江戸川税務署管内からも同業者が抽出されている(乙七六))。さらに、たしかに、千葉県内の抽出同業者数は、昭和六三年分及び平成元年分においては一名であるが、本件では、そのため抽出地域を東京都二三区まで広げて複数の同業者を抽出し、その平均を出しているのであるから、むしろ合理性を高める作業がなされているともいえるのである。さらに、いわゆる倍半基準は、推計課税の基礎となる収入金額や仕入金額の多寡が当該納税者の事業規模を推測する蓋然性の高い価値尺度たりうるという経験則を前提とするものであるから、これにより抽出された同業者によって原告の所得率を決めることもまた合理性を有するものというべきである。

また、前記(2)の点については、たしかに、被告が異議決定時及び審査裁決時において示した「同業者の平均特前所得率」と本件訴訟において被告が主張する「同業者の平均特前所得率」とは異なっており、後者の方が高率であるが、しかし、同業者の抽出に合理性が認められる以上、特段の事情がない限り、その同業者の平均特前所得率も合理性をもつものというべきである。本件においては、未だ右「特段の事情」は認められないのである。原告は、その主張する所得率を前提として被告の主張する「同業者の平均特前所得率」を批難するが、その前提がまさに問題となっているのである。

さらに、前記(3)の点については、たしかに、原告は工場をもっておらず、従業員や外注先とともに発注者の工場に出向いて鉄骨組立業を遂行しているが、「同業者の平均特前所得率」の適用に当たってそのような事情を考慮しなかったとしても、それによって被告のした前記「特前所得金額」の算出が合理性を失うものではない。

原告の右主張は採用することができない。

3  原告の主張する本件各係争年分の事業所得の実額について

(一) 実額に関する主張立証責任

推計課税は、実額課税を補充するものではあるが、それ自体一つの課税方式である。そして、推計課税は、間接的資料を用いて納税者の所得金額を推計するものである以上、当然に、必ずしも真実の所得金額とは一致するものでないことを前提としているのであり、それでもなお推計によって算出された金額をもって納税者の所得金額とするものである。

そうとすれば、推計の必要性及び合理性が認められる以上、その推計によって算出された金額が納税者の真実の所得金額を上回ることの主張立証責任は、被告の抗弁(推計課税とその必要性及び合理性)に対する反証ではなく、原告が自ら主張立証責任を負うところの再抗弁であると解すべきである。すなわち、原告は、総収入金額と必要経費の双方を実額で主張立証すべきものであり(所得税法二七条二項)、総収入金額については「その年において収入すべき金額」を(同法三六条一項)、必要経費については「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額」を(同法三七条一項)、それぞれ主張立証すべきものである。

(二) 原告の主張する総収入金額について

(1) 原告は、本件各係争年分の総収入金額として、前記のとおり、昭和六二年分が九五三三万一〇二五円、昭和六三年分が九八八五万四四〇〇円、平成元年分が九九六六万九一九六円であると主張し、その証拠として「売上関係資料」と題する書類(甲三一の1ないし5、三二の1ないし12、三三の1ないし12、三四の1ないし15(ただし4は欠番)、三五の1ないし14、三六の1ないし18、三七の1ないし14)、領収証の控(甲三八の1、2、三九の1ないし7、四〇の1ないし11)、銀行預金通帳(甲四一ないし四五)、請求書(控)(甲一〇八及び一〇九の各1ないし33、一一〇の1ないし24、一一一の1ないし35、一一二の1ないし36、一一三の1ないし32、一一四の1ないし38、一一五の1ないし33、一一六の1ないし11、一一七の1ないし39)を提出し、これ以外に収入はない旨を主張する。

(2) そして、この総収入金額は、被告が本件訴訟において主張する原告の実額による総収入金額(昭和六二年分九五三三万一〇二五円、昭和六三年分九八八五万四四〇〇円、平成元年分九九六六万九一九六円)と一致しあるいはほぼ一致している。

(3) しかしながら、原告の主張する総収入金額については、次の点を指摘することができる。

ア 原告は、一旦、その供述において「千葉銀行八千代支店の原告名義の普通預金口座(口座番号一二四一〇五三)(甲四一ないし四五)以外に仕事に使用している口座はない。」旨を述べたが(第一五回)、その後、被告から同支店に別の普通預金口座(口座番号二一五二七五〇及び口座番号二一五八〇三〇)(乙六一)があることを指摘されるや、その後、このうちの一方の普通預金口座通帳(口座番号二一五八〇三〇)(甲一〇一の1ないし5)を追加して提出し、右預金口座に高橋鉄工(株)から入金された三七〇万円(甲一〇一の4)が仕事と関係のある入金(売上)であることを認めるに至った。もっとも、この三七〇万円の売上は、既に総収入金額の中に計上してあったものではあるが(甲三〇)、原告に売上の計上漏れがあるのではないかとの疑念を抱かせないわけではない。

イ また、吉村工業(株)作成名義の外注費支払証明書等(甲三一の1ないし5)は、本件訴訟の係属中の平成七年二月に作成されたものである。

ウ さらに、原告は、前記のとおり、平成元年分の高橋鉄工(株)に対する売上額を一二七八万三六四五円と主張しているが、原告の総勘定元帳(甲三〇)に記載されている高橋鉄工(株)に対する売上高は合計一一二八万一三二一円である(甲一〇七の15参照)。しかも、この金額も誤りであって、乙第五九号証に記載の相殺分一五六万七〇七四円(甲一〇七の15参照)が経費(材料費)として別途計上されていないのである。また、相殺分を記帳していない点をおくとしても、真実の売上額はこれより六万四七五〇円(甲一〇七の15参照)少ない一一二一万六五七一円となるのである。この点は原告も認めるところである。

(三) 原告の主張する必要経費について

(1) 原告は、本件各係争年分の必要経費を立証する証拠として、領収証を提出し、「証拠として提出した領収証に再発行と記載のあるもの以外の領収証は金銭を支払った日又は支払った日の数日後に受領したものである。」旨を供述する(第一五回)。

しかしながら、昭和六二年分の「外注費」に関する中村国弘作成名義の領収証(甲五〇の3、14、28、43、58、70、84、110、121、128、153、157)、北村芳照作成名義の領収証(甲五〇の6、17、31、46、61、73、87、111、122、131、154、158)、矢口組作成名義の領収証(甲五〇の12、167)、昭和六二年分の「交際接待費」に関する株式会社山口商会作成名義の領収証(甲五八の2のロ)、スナックガーベラ作成名義の領収証(甲五八の3のロ、17、19、35)、昭和六三年分の「外注費」に関する中村国弘作成名義の領収証(甲六四の1、14、29、42、55、67、90、93、105、118、136、153)、北村芳照作成名義の領収証(甲六四の8、17、33、46、59、71、91、97、109、125、140、157)、矢口組作成名義の領収証(甲六四の38、76)、昭和六三年分の「交際接待費」に関するスナックガーベラ作成名義の領収証(甲七三の15、17、30、35、38)、平成元年分の「外注費」に関する中村国弘作成名義の領収証(甲七九の3、15)、北村芳照作成名義の領収証(甲七九の4、16)、平成元年分の「交際接待費」に関する有限会社フレッシュ秋元作成名義の領収証(甲八八の3)、以上の領収証はいずれもその作成日付が平成元年四月一日施行の消費税導入前であるにもかかわらず、その内訳に消費税欄があるのであり、また、右領収証の用紙の製造自体も平成元年三月以降であって(乙七五)、右各領収証はいずれもその作成日付には存在せず(ただし、「コクヨ ウケ1048 領収証」は平成元年三月に製造販売を開始されているので(乙七五)、「コクヨ ウケ1048 領収証」を使用している甲七九の16を除く。)、後日に作成されたものと認められるのである(原告も、この点は認めている。)。これによれば、右各領収証の記載内容にも疑問を投げかけざるを得ないこととなる。

この点につき、原告は、「外注費に関する領収証については、税務調査当時(平成二年九月一八日)に漏れ落ちていたものを外注先に再発行してもらっただけであり、元請に問い合わせたり請求書をふまえたりして金額を確認しており、接待交際費に関する領収証についても、元の領収証がかすれたり汚れたりして判別が難しいものについて、税務調査当時に再発行してもらったにすぎない。いずれにしても記載の内容については間違いはない。」旨を主張するが、中村国弘及び北村芳照作成名義の平成元年三月以前の作成日付の領収証は右に掲げたもの以外になく、したがって、中村国弘及び北村芳照作成名義の領収証で平成元年三月以前に作成されたものはなかったことになり、極めて不自然であって、これに徴しても、右主張はにわかに採用することができないものというべきである。

(2) また、「再発行」の旨が記載された領収証も少なからず存する(甲五二の45、52、61、103、六四の8、38、76、六七の3、4、65、102、107、七六の1、10、13、14、九一の15)。

原告はこれについて、自己の手元に残っていたメモに基づいて支払った金額を相手に示して再発行をしてもらった旨を供述するが(第一五回)、原告は、一方で、メモの保存期間は一年間であるとも述べているのであって(第一五回)、右再発行に係る領収証についてもその信用性に疑問をもたざるを得ないのである。

(3) さらに、原告の提出する領収証の中には、宛名が「上様」となっているものが極めて多く存在する(約二〇〇枚)。

(4) 加えて、原告が金銭の支出を立証するために提出した書証の中には、原告が自ら作成したにすぎない「出金伝票」又は「給与支払明細書(控)」が多く、これに対応した領収証のないものが多くある(例えば、甲五二の4、11、22、31、44、51、59、67、74、83、92、104、五六の1ないし12、24ないし75、五九の2、5、六四の130ないし134、147ないし151、163ないし167、六七の1、12、25、34、42、48、52、57、64、81、105、112、七一の2ないし11、13ないし30、32ないし64、七三の11ないし13、七四の2、七九の13イないしホ、八二の5、12、22、34、54、62、70、76、85、97、107、135、八六の1ないし4、6ないし10、12ないし15、17ないし37、53ないし58、60ないし65、67ないし72、74ないし83、八八の7のイ及びロ)。

(5) そして、原告が必要経費として計上するものの中には、仮にその支出が真実であるとしても、経費として認めることができるか否か疑問であるものが多くあり、特に、福利厚生費として計上するもの(例えば、ジュース代と称する支出)、交際接待費として計上するもの(例えば、従業員のスキー旅行の費用やそのみやげ品購入代金)の中にはそれが多くある。

(6) 福利厚生費について

原告が主張する福利厚生費の大部分は、〈1〉給料日会合費、〈2〉残業食代、残業食事代、現場食事代、現場帰り食事代、〈3〉ジュース代、の三つで占められている(甲二八ないし三〇)。

ア 給料日会合費について

原告は、「給料日会合と称する会合を、原則として、毎月の給料日に従業員や外注先を主に自宅に集めて午後五時三〇分ころから午後七時三〇分ころまでの間行い、作業の進行上の必要な段取りや安全確保の方法などについて話し合ったが、その際の費用として、飲食費等を必要経費として支出した。」旨を供述する(第一三回、第一五回)。そして、この内容にそうものとして「美好屋酒店」の領収証(甲五二の1、8、17、26、47、55、63、70、78、89、95の各ロ、六七の29、36、44、53、67、104、110の各ロ、八二の7、15、30、57、66、81、99、134の各ロ)を提出するほか、原告の従業員出水睦男、荒井清浩及び本田透の陳述書(甲一二二ないし一二四)を提出する。

しかし、原告の従業員であった本間貞雄及び外注先であった小林俊、佐々木貞次郎、塩沢誠は、これを否定しており(乙六七ないし七〇)、右領収証の日付も給料日(七日)以外の日付がほとんどである。

イ 残業食代・残業食事代・現場食事代・現場帰り食事代について原告は、「残業した者に残業食を出してやり、現場から帰ってきた者に食事をさせてやることがある。その残業食代及び現場帰り食事代を必要経費として支出した。現場帰り食事は、原則として自宅近くでとってもらっていた。」旨を供述し(第一五回)、その証拠として、「中華料理一番」等の領収証を提出するほか、前記荒井清浩らの陳述書を提出する。

しかしながら、前記本間貞雄及び小林俊はこれを否定しており、また、原告の仕事は原則として日曜日は休みであるにもかかわらず、原告提出の右「中華料理一番」等の領収証の中にはその作成日付が日曜日や祭日のものが多く(甲二八ないし三〇、五二の3、5、7、9、20、24、30、34、37、41、43、72、73、75、81、88、91、100、六七の2、7、8、14、17、18、24、35、40、51、106、八二の19、23、24、29、32、35、41、42、43、44、46、50、77、91、103)、さらに右「中華料理一番」は転居前の原告宅の近隣にある店であり、他方、平成元年分の右領収証の中には、江戸川区平井に所在する店のものもある。

ウ ジュース代について

原告は、「従業員及び外注先に対するジュース代として、一日一人二〇〇円の計算で毎月一人あたり五〇〇〇円分合計七万円を、人数に応じて分割して、毎月給料日に一括して各工場の責任者に渡していた(千葉県西部鉄骨業協同組合における責任者荒井清浩に三万五〇〇〇円、(株)米山鉄工所における責任者本田透に二万五〇〇〇円、吉村工業(株)における責任者本間貞雄に一万円)。」旨を供述し(第一三回、第一五回)、出金伝票(甲五二の4、11、22、31、44、51、59、67、74、83、92、104、六七の1、12、25、34、42、48、52、57、64、81、105、112、八二の5、12、22、34、54、62、70、76、85、97、107、135)を書証として提出するほか、前記荒井清浩らの陳述書を提出する。

しかしながら、前記のとおり、右出金伝票に対応する領収証は一枚もなく、しかも、その責任者の一人である右本間貞雄はジュース代が渡されていたことを否定しており(乙六七)、外注先の前記小林俊や佐々木貞次郎及び塩沢誠もそれを否定している(乙六八ないし七〇)。

原告は、責任者に渡したジュース代が実際にどのように使われていたかは知らない旨を述べているが、右荒井清浩は、ほとんどはビールや酒を買って仕事が終わった後に皆で飲んでいた旨を述べており、そうとすれば、それはもはや経費とはいい難いものであろう。

エ 原告は、平成元年五月二〇日に東名高速道路の富士川サービスエリア内の「サンズ富士川レストラン」で食事をした代金一五四〇円と「浜名湖近鉄レストラン」で食事をした代金一五三〇円を福利厚生費として計上しており(甲三〇、八二の51、52)、その理由として、実弟の市村寧良が掛川市にある工場の改修の見積に行った際の食事代を負担したものである旨を供述しているが(第一六回、第一九回)、掛川市は浜名湖よりも東京寄りにあるものであり、なぜ「浜名湖近鉄レストラン」まで行く必要があったのか明らかでなく、しかも、原告の提出した領収証の中には、同日(五月二〇日)午前一一時二五分ころに名神高速道路下り線養老サービスエリアSS(岐阜県大垣市)で四八・二リットルの給油を受けた旨の領収証(甲八五の56)もあり、また、同月二二日に富山県小矢部市で五二・八リットルの給湯を受けた旨の領収証(甲八五の57)もあるのである。この時期、富山県に現場はない。

(7) 修繕費について

原告が修繕費として計上する昭和六二年三月三〇日支出の一万二〇〇〇円(甲五四の1のロ)は、原則的には原告の私用に使う車両(トヨタクラウン)のタイヤ交換代金であり、また、消耗品として計上する昭和六三年九月二七日のガソリン代七九〇一円(甲七〇の113)もその車両のガソリン代である。

(8) 消耗品費について

ア 原告は、消耗品費として仕事用の車両二台のガソリン代を計上するが、しかし、この車両を家事関連でも使用していたことは原告の自認するところであり(第一五回)、さらに、例えば、昭和六二年一月二日午後五時〇五分ころに二〇リットルの給油を受け(甲五五の1)、同日午後四時〇二分ころに一〇リットルの給油を受け(甲五五の2)、次いで、翌三日午後一一時五二分ころに二〇リットルの給油を受けているが(甲五五の3)、一月四日からの仕事の開始に備えてあらかじめ給油をしておいたとの原告の説明を考慮しても、不自然の感を否めない。また、宛名が「カネハマ様」であるガソリン代の領収証もある(甲五五の111)。

イ 原告は、昭和六二年分の消耗品費として二七〇万〇〇一七円を計上していたが、被告からの指摘を受けて、最終口頭弁論期日において、外注先の矢口組に請求すべき弁当代金合計三六万四二二四円が経費に計上できないことを認めて、その過大計上を認め、消耗品費を二三三万五七九三円と変更した(ただし、甲二八の総勘定元帳の「消耗品費」に計上されている金額は合計三〇万二四九四円である(「相手科目」を「千葉県西部鉄骨」とする、二万三〇七八円、一万四九六〇円、一万九七八六円、二万二七五〇円、一万六二五〇円、三万八八六〇円、二万一四一〇円、三万一三一〇円、二万八二二四円、二万三四五〇円、二万七七〇二円、三四〇〇円、二万八六〇四円、二二三〇円及び四八〇円の合計金額))。

(9) 旅費交通費について

ア 通勤交通費について

原告は、従業員に対し毎月定額(昭和六二年分は一人当たり二万四〇〇〇円、昭和六三年分及び平成元年分はいずれも一人当たり二万六〇〇〇円)の通勤交通費を支給していた旨を供述し、(第一三回、第一五回)、それにそう出金伝票(甲五六の1、7、24、30、36、46、47、52、57、62、67、75、七一の3、11、13、18、25、26、32、43、44、53、54、61、八六の1、6、12、17、23、28、34、53、60、67、74、80)を証拠として提出し、前記荒井清浩らの陳述書を提出する。

しかしながら、従業員によってその住居及び赴くべき発注先の工場が異なるのに同一の通勤費を支給するというのも不可解不合理であり、はたしてそれを通勤費として全額経費に計上しうるか疑問であるが、この点をしばらくおくとしても、前記のとおり、原告が作成した右出金伝票に対応する従業員の領収証はないのであり、昭和六二年二月には従業員加藤正幸は九・五日しか出勤していないのに(甲五一の6)、一か月分二万四〇〇〇円の通勤交通費が支給されたとされており(甲五六の7)、また、前記本間貞雄は「市村さんが車で工場に送ってくれていたので特に交通費はもらっていない。吉村工業へ自転車で行くようになってからは、三〇〇〇円から五〇〇〇円位をもらっていた。」旨を述べているのである(乙六七)。

原告は、従業員全員が同一金額であるのは実際の通勤交通費の総合計額を従業員数で割って平均化したからである旨を説明するが(第一七回)、にわかに首肯是認することができない。

イ 現場交通費について

原告は、「従業員及び外注先が現場に行った際には現場に行くための交通費を一定の基準により算出して、これを実際に各工場の責任者を介して支払っていた。」旨を供述し(第一三回)、それにそう出金伝票(甲五六の2ないし6、8ないし12、25ないし29、31ないし35、37ないし45、48ないし51、53ないし56、58ないし61、63ないし66、68ないし74、七一の2、4ないし10、14ないし17、19ないし24、27ないし30、33ないし42、45ないし52、55ないし60、62ないし64、八六の2ないし4、7ないし10、13ないし15、18ないし22、24ないし27、29ないし33、35ないし37、54ないし58、61ないし65、68ないし72、75ないし79、81ないし83)を証拠とし、前記荒井清浩らの陳述書を提出する。

しかしながら、原告の仕事の形態は、前記認定のとおり、原則として発注者(元請)の工場に赴いて製作加工組立工事を行うものであり、仮にこの点をしばらくおくとしても、前記のとおり、原告が作成した右出金伝票に対応する従業員の領収証はまったくなく、また、前記外注先の小林俊らは現場交通費の支給をいずれも否定しているのである(乙六八ないし七〇)。

ウ 原告は、高橋鉄工(株)から発注を受けた「ホンダ和光研究所」の仕事に関し、現場交通費として一五人日分四万五〇〇〇円を支給したとして、これを経費に計上しているが(甲三〇、八六の20)、原告が作成した高橋鉄工(株)に対する請求書(乙六〇の1)には六人日と記載されている。また、原告が高橋鉄工(株)から請け負った工事に関し平成元年六月に福島県喜多方市に自己と外注先一名とが出張した際の現場交通費二人分四万九六〇〇円を計上するが(甲三〇、八六の31)、原告が高橋鉄工(株)に提出した請求書(乙六〇の2)には右現場に赴いた人数が一人と記載されている。

(10) 交際接待費について

ア 同好会行事について

原告は、「千葉県西部鉄骨業協同組合の同好会が昭和六三年二月中旬に主催した新潟県湯沢町所在の岩原スキー場へのスキー旅行に原告の従業員や外注先の合計四名が参加した際、宿泊代や食事代合計三万二五〇〇円を出してやった。」旨を供述する(第一六回、第一九回)。

しかしながら、二月一四日にしたとされる「赤城ドライブイン」での食事代三二〇〇円及び二月一六日にしたとされる「佐野ドライブイン」での食事代三八〇〇円については出金伝票だけであり(甲七三の11、12)、これに対応する領収証がなく、しかも、原告は、「柏インターを入って岩槻から東北自動車道に乗り、混んでいるときは館林で下りて、佐野を通って行くことがある。一つも不思議なことはない。」旨を供述するが(第一六回)、同じ日に「赤城ドライブイン」と「佐野ドライブイン」とに立ち寄ったものと錯覚して供述している点はともかく、岩原スキー場は関越自動車道の湯沢インター付近にあり、そもそも、岩原スキー場に行くのに初めから東北自動車道に乗るというのも不自然であり、また、「佐野ドライブイン」は館林インターの先にあって、館林インターで下りてしまえば「佐野ドライブイン」には行けないことになるのである。そして、そもそも、右を必要経費として計上しうるかも疑問である。

イ 元請会社主催旅行について

原告は、「千葉県西部鉄骨業協同組合が昭和六四年一月五日から七日までにかけて主催した北海道スキー旅行に従業員が参加した際の費用一四万二七四〇円を出してやった。」旨を供述する(第一六回)。

しかしながら、右一四万二七四〇円のうちの一三万二〇〇〇円は平成元年一月分の売上から控除されているものの(甲三〇、三四の1の「北海道旅行費三〇万円」から「旅行積立金一六万八〇〇〇円」を引く。)、その余の金額については出金伝票のみで(甲八八の7のイ及びロ)領収証はなく、そもそもそれが必要経費として計上できるかも疑問である。

ウ 原告は、「昭和六三年七月九日に寺光工業の現場で安全週間の会合が催され、それに原告の従業員や外注先を出席させ、その際の食事代として五二二〇円を支出した。」旨を供述し(第一六回)、領収証(甲七三の31のロ)を提出するが、原告が昭和六三年に寺光工業から工事の発注を受けた事実はない(昭和六三年分に寺光工業に対する売上はない。)。しかも、その領収証は宛名が「上様」となっている。

(11) 通信費について

原告は、通信費として電話料金を計上するが、この電話料金の中には家事関連の電話料金が入っているのであり、このことは原告の自認するところである(第一五回)。

(四) 結局、右(二)及び(三)で述べた諸点を総合考慮すると、原告が本件訴訟において提出する書証(領収証、出金伝票等)については、その全部をその記載のままに信用することには躊躇を覚えざるを得ず、また、それがそのまま必要経費として認めうるものかも疑問なしとせず、少なくとも、原告の主張する必要経費の実額についてはその立証が未だなされていないものというべきである。原告の本件各係争年分の事業所得についての実額の主張はこれを採用することができない。

4  本件各処分の適法性

原告の本件各係争年分の事業所得の額は、昭和六二年分が一二二三万八五五九円、昭和六三年分が一二七八万一八七四円、平成元年分が一五五〇万八五二七円と推計され、そして、その推計について、推計の必要性と合理性が認められるから、本件各係争年分の事業所得の金額につき、昭和六二年分を一〇九六万一〇二七円、昭和六三年分を一二一七万八八六三円、平成元年分を一一五五万六四二九円と更正した本件各更正処分及びそれを前提とする本件各賦課決定処分には何ら違法はないことになる。本件各処分は適法である。

第四結論

よって、原告の本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年一〇月九日)

(裁判長裁判官 原田敏章 裁判官 小宮山茂樹 裁判官 大濵寿美)

別表一の1

課税処分等の経緯

(昭和六二年分)

〈省略〉

別表一の2

課税処分等の経緯

(昭和六三年分)

〈省略〉

別表一の3

課税処分等の経緯

(平成元年分)

〈省略〉

別表二の1

昭和62年分 同業者率算定表

〈省略〉

別表二の2

昭和63年分 同業者率算定表

〈省略〉

別表二の3

平成元年分 同業者率算定表

〈省略〉

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